文章を書くことを生業にしていながら、いつになく緊張しながらこれを書いております。それには理由が二つありまして、まず、本著に先立った『お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人』が、予想以上に売れたからです。ならば今回のこの文庫も売れそうだとする、みなさまのご期待がずっしりとプレッシャーになっております(笑)。もっとも、こちらは嬉しい悲鳴にちがいありません。実は二つ目の理由の方が、はるかに真剣。新刊が出たからといって、この緊張からすぐさま開放されるというものではございませんので、現在進行形で今なお真剣勝負は続いております。 住んでいる神楽坂の、自宅から歩いて10分ほどのところで、焼き菓子屋をはじめて半年ほどたちました。19世紀、フランスの女流作家にちなみ、店名を<ジョルジュ・サンド>と名づけました。20年におよぶパリ生活でためこんだレシピとはいえ、プロ経験のない私が作って売る焼き菓子なのですから、お材料のよさと素朴さが信条。夜型の習慣は相変わらずですが、以前の昼間ブラブラしていた生活が一転して、規則正しい日常になりました。親友たちがぼちぼち定年を迎える世代の私に、今までとまったくちがう生活がスタート。世間でよくいう、二足の草鞋を履くことになりました。 自由人の典型と思われがちな物書きが、勤勉な焼き菓子屋になったことが、そもそも二つ目の緊張のはじまりでした。物書き稼業と焼き菓子屋という商売をはじめた私はいったい、なにをどう考えたらいいのかと、しばらくジレンマに陥りながら、存じ上げている書店さんのお顔まで目の前にちらつきました。そしてあるとき、こんな思いにいたったのです。自分はつくづく、机上の空論に嫌気がさしていたのだなと。そして、これからは目の前の現実を書こうとも。 焼き菓子を入れた箱にピンクのリボンをかけながら、2階のサロン・ド・テと呼んでいる喫茶でコーヒーを運びながら、お客さまと接する私に、こんな一行(ひとくだり)が浮びます。 「日本人も捨てたものではありません。ほんの少し愛という言葉を大切にするだけで、なん倍も楽しく暮らせます。ここはひとつ家庭的なフランスを参考にして、愛し方を磨こうではありませんか」と。 膨大な数の新刊本ひしめく書店さんの書棚から、この一冊を手に取ってくださる読者さんと、そうした読者さんを本と結びつけるお役目の書店さんに、この場をお借りして心からお礼を申します。素晴らしい人生のお供ができるような本を、これからも書き続ける所存です。どうぞ今後ともよろしく、ご指導ください。 2007年12月17日 吉村葉子
★吉村葉子|オフィシャルサイト→http://www.yokoyoshimura.com/
講談社文庫 激しく家庭的なフランス人 愛し足りない日本人 (吉村葉子 著) 定価:560円(税込) ISBN 9784062759304 A6判・252p 12月14日搬入発売・絶賛発売中! もっと家庭的になって愛し方をみがこう 『お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人』 の著者によるエッセイ第2弾 著者から書店様へのメッセージをいただきました。 ぜひ当サイト「新刊情報」ページもご覧ください!