『ヤスマくん,立ってなさい』に託す
社内での出世を考え,それに専念さえしていれば,なんら心配のない時代があった。ところが,バブル経済の崩壊。リストラ,あるいは会社が倒産,目的を失ったサラリーマンは,私が想像できないような打撃を被ったようだ。 私は,ずっとフリーランス。贅沢な生活など望むべくもないが,世の中に振り回されることも少なく,したいことを続けてきた。そんな自分は,案外幸せな生き方をしているのではないかと感じるときがある。 私は,野生動物の生態を研究し続けるとともに,「調査のノウハウを途上国の研究者に伝授すること」「難しいとされる専門分野を分かりやすく一般の人たちに紹介すること」を仕事としている。いつか研究の世界が,一般の人たちに認知される時代が来るだろうと期待しているからである。 一生,生き物と関わり続けたいと思ったのは,小学生時代だったと記憶している。敗戦後の暗い世相であったが,私たちは遊び,勉強し,大きな夢をいだいていた。テレビはなかったし,おもちゃやゲームも少なかった。だからこそ,外で思い切り遊び,子供なりに工夫し,自然を相手に大いに楽しんだ。 「夏は虫捕りだったかな」「釣りもやったな」そんなことを思い出すうちに,私は当時を本に著し,同世代の人たちと思い出を共有したいと考えるようになった。すなわち,最初に意識した読者は,五十歳から六十歳台の人たちである。 ところがペンを進めるうちに,自分でも赤面してしまうことがあった。いたずらの連続で,とんでもない悪童だったのである。それでも,どうにかお天道さまの下を歩くことができるようになったのは,先生方のお陰ではなかったのだろうか。そう考えるうちに,それでは,「先生,こんな生徒がいたらどうしますか。叱りとばしますか,それとも個性に賭けてみますか」と,現役の先生方にも読んで欲しいと思うようになった。いわば,問題の提起である。 そして,原稿を書き上げて気づいたことがある。自由奔放な小学生時代を自負していたが,それは,実は完全に両親の影響下でのものだったのである。子どもには十分満足な生き方をさせておき,それでいて子どもをコントロールしている,そんな両親の絶妙なチームワークに子育てのコツがあるのだと感じる。小学生の子を持つお父さんお母さんに,ぜひ読んでいただきたい所以である。 本書は,小学校四年生から習う漢字にふりがなが振られ,子どもにも読んでもらえるようになっている。五十年前,小学校はどんなところだったのか,子どもたちにはどんな付き合いがあって,どんな遊びをしていたのか。そんなことを伝えたいのだが,特に,外で遊ぶ楽しさ,工夫して遊ぶおもしろさを知って欲しい。そこにはいつも友だちがいたが,一人で考える時間の大切さも分かってもらえるだろう。 やり直しのきかない人生,それは大人にとっても子どもにとっても同じことと言える。一日一日を大事にして,悔いのない少年時代を送ること。夢を持ち続け,その夢に向かって歩み続けて欲しい。それが,明日を担う子どもたちへの,私からのメッセージである。 2004年3月1日 安間繁樹
ヤスマくん、立ってなさい! (安間繁樹 著) ISBN:4062121980 定価: 1680円(税込)
教室の外こそ学校だ。 お父さん、お母さん、自分の子ども時代を思い出しなさい。
身近な小さな自然でいい、とにかく外へ出ることだ。 暴れたり、虫や花をとることがあっても、自然はそんなことではびくともしない。自然とは力があって、すごい包容力を持っているものなのだ。 いたずらっ子ヤスマくんが過ごした’50年代小学生の日々。