●Message from Author●
著者から未来研書店様へのメッセージ
このページでは、著者から未来研書店様へのメッセージをお届けします。
第五回は、新刊『馬男』刊行に際する
著者・桃谷方子氏からのメッセージです!


 ぜんそく治療のために使用したステロイド剤の副作用でうつ病を患い、ここ四五年もうろうとしていた。
 毎日、目を覚ましてから床を離れるまで数時間がかかっていた。寝室を出ても洗面所へは行かずそのままリビングのソファに横になってしまうのが、自分のことながら不思議なくらい動きたくなかった。その日やったことといえば洗顔だけ、なんていうのはしょっちゅうだった。それすらやらない日も珍しくなかった。アレルゲンがハウスダストとイエダニなので、こまめに掃除をしなければぜんそくの発作が起きるのがわかっているのに、やる気が起こらなかった。去年、掃除機をかけたのはゼロ回であった。
 そんな状態だった私が、『恋人襲撃』以来三年振りに、『馬男』を刊行していただくことになった。
 ここにおさめられた短編は『小説現代』に二年をかけて掲載していただいたものである。 思えば、小説現代という発表の場が与えられなければ「恋兎」も「婆狐」も「馬男」も「妖猿」も「鹿の女」も、とても書けなかっただろう。
 どの短編も書いている時間は、うつ病を忘れたみたいに夢中になっていた。創作するということはなんと楽しいのだろうと興奮していた。
 兎のように柔軟で、狐のように敏捷で、馬のように強靭、猿のように軽やかで、鹿のようにしなやかに、そんな肉体になりたいと思いながら書いていた。

                                      桃谷方子



馬男
(桃谷方子 著)
ISBN:4062123983  定価: 1575円(税込)

 愛しているからこんなに切ない
 男と女。男と男。女と女。胸を刳る、心に滲みる、深い感動。桃谷方子が貴方を揺さぶる5つの愛の物語。

 「覚えていた?」わたしは唇を開いた。唇の端が粘ついている感じがして、言いにくかった。「忘れたことなんかないよ」プリンスホテルを通り過ぎた。公三と何度か泊まったことがある。――(本文「馬男」より)