●Message from Author●
著者から未来研書店様へのメッセージ
このページでは、著者から未来研書店様へのメッセージをお届けします。
第七回は、新刊『乱調』が絶好調の藤田宜永氏からのメッセージです!


 小説家デビューして19年目に入りました。処女作は私立探偵物。パリで事務所を開いている邦人探偵が主人公でした。それから、ハードボイルドを中心に、ユーモア小説、本格ミステリ、ホラー物なども書いてみました。そして『樹下の想い』で恋愛小説に挑戦し、現在に至っています。
  書店の方々にとって、ジャンルが一定しない作家の作品ほど扱いづらく、売りづらいものはないでしょう。どの棚に置いたらいいのかすら、すんなりと決まらないのですから。
  私自身ももっと売れて、遊びのため、老後のため、貯蓄を殖やしたい。親しくさせていただいている書店の方々にも恩返しがしたい。そうは思っているのですが、いざ書き出すと、お金を貯め込むことも、恩に報いることも忘れて、好きなことを書いてしまうのです。
  『乱調』もジャンルを飛び越えてしまったところのある作品です。しかし、これまでのように扱いにくい作品ではない気がしています。
  主人公の男は、通常あってはならぬ関係をヒロインと結んでしまいますが、あくまで真っ直ぐな恋物語です。しかし、書き進むにしたがって、次第にミステリ色を帯びてきました。
  ヒロインには謎があります。死んだ息子にも謎があります。男は恋をしつつも、いくつもの謎をすべて解明しようと躍起になります。まるで、私立探偵が調査しているかのような筋の運び具合になっていったのです。
  19年前、私立探偵を主人公にして処女作を書いたときの感じが、知らず知らずのうちに戻ってきたと言っても過言ではありません。厳密にはミステリと言えないかもしれませんが、ヒロインと息子の謎が解明されていく点はまさにミステリなのです。
  もう一点、触れておきたいのは、この作品は男の物語でもあるということです。
  主人公は猫をかぶって、市民社会と折り合いをつけ、或る程度の出世を勝ち得た男です。ところが中年になって、自分の擬態にどこか嫌気がさしてきました。そんなとき、ヒロインと出会い、乱調が始まります。
  順風満帆の人生に飽き飽きするというのは贅沢な悩みかもしれませんが、皆さんの中にも、分別の檻からちょっとぐらい抜け出してみたいという願望をお持ちの方はいるはずです。
  中年を迎えた男は、人生のゴールが見えてきたような気になるものです。しかし、ゴールはまだまだ先です。到達するには一山も二山も越えなければなりません。ゴールがかすかに見えているにもかかわらず、山を登り谷を下らなければならない。そんな苦しさに見舞われたとき、乱調は起こるように思えます。主人公にどんな結末が待っているのか、それもまた、読者の興味を引くのではなかろうか、と思っています。
  『乱調』という謎を解く恋物語を書いたことで、これからの作品も、また少しずつ変化してゆくかもしれません。
  またぞろ作風が変わる?それじゃ、ますます扱いづらくなるだけじゃないですか。
  そんな声が聞こえてきそうな気がします。ですが、これが私の乱調=Aと居直って、緊張感のある作品を、これからも書き続けてゆきたいと思います。
 
  2005年7月3日
                                      藤田宜永

■藤田宜永プロフィール
1950年4月12日福井市生まれ。早稲田大学中退後、渡仏しエールフランスに勤務。
帰国後、’86年に『野望のラビリンス』(角川書店)で小説家デビュー。
‘95年『鋼鉄の騎士』(新潮社)で日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会特別賞をW受賞。
2001年『愛の領分』(文藝春秋)で直木賞を受賞。

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乱 調
(藤田宜永 著)
ISBN:4062129531  定価: 1890円(税込)

なぜ、死んだ?Mとは誰だ?
人気ミュージシャンだった息子タカの突然の死。ファンなのか、恋人だったのか、私の前に現れた女子高生・深雪。男は、少女の投げかける謎と格闘し続ける。
ジャンルを一気に超えた衝撃の恋愛ミステリー
恋愛小説作家・藤田宜永が、自らの原点であるミステリーと、恋愛小説を新たに融合させた問題作。…………
人気ミュージシャンだった息子・鷹也が自宅で首をつった。パリで働く私は、日本出張に合わせて休暇を取り、その死の原因を探ることにした。かつて鷹也が住んでいたマンションには、深雪という名の女子高生が住んでいた。「今もタカは、私の心の中で生きている」と言う彼女は、熱烈なファンなのだろうか。調査を進めるうちに、私は次第に深雪にひかれていった。が、彼女は、息子の恋人だったのかもしれない。ある日、深雪にかけた携帯電話の後ろから聞こえた音。その音に、驚愕の事実が隠されていた!!

  かつて、直木賞候補にもなった弊社刊『樹下の想い』が、藤田宜永という作家が本格的に恋愛小説の書き手へと進化した最初の作品であることは、編集者なら誰でもが知る事実です。『樹下の想い』以降の藤田さんは、次々と恋愛小説をものし、近い将来、第二の渡辺淳一になるのでは、と陰で密かに噂する人たちもいました。
  3回めの候補作『愛の領分』で直木賞を受賞後、攻め寄せる各社の依頼を精力的にこなし、よくもまあ、種が尽きないものだと、心密かに思う私に、藤田さんはいつも、「書きたいテーマはいっぱいある」と宣言していました。でもねえ、そりゃねえ……恋愛の諸相という言葉があるくらいだから、恋愛小説のネタは無尽蔵なのだろうけれど……と、心配性の私は、行き詰まったらどうする、と勝手に心配していたのです。
  そんな折、この『乱調』の新聞連載が始まったのです。当初から、恋愛小説であることは前提となっていました。実際、連載を読むと、文字通りの恋愛小説でした。が、今までと何かが違うのです。むむむ、何かこれ、ハードボイルド・タッチだなあ。主人公が息子の死の謎と、その裏にいるらしい人物を探っていく。つまり主人公は探偵役――これをして、ハードボイルドと言わずに何と言う!
  恋愛小説の旗手から、今や名手とまで言われる藤田さんですが、そこはそれ、一筋縄ではいかないのが、プロの作家というものでもあります。
  新しい恋愛ミステリー・ジャンルへと、自身の小説世界の幅を拡げ、もう一つのステージに進化させたのです。
  担当編集者として、ミステリー作家・冒険小説作家から恋愛小説へとシフトした時、そして今回また新しい地平を切りひらいた瞬間、その二つのエポックに立ち会うことができ、かなり幸せな気分を味わっている今日この頃です。

                                 文二 福田美知子