●香港書店事情#01
在港邦人のオアシス:香港の日系書店

海外で暮らす日本人にとって、日本書籍を扱う書店というのは遠く離れた祖国日本を映す窓のようなもの。新刊を眺めては、「今の日本はこういう流れなのか」とフムフム。ローカル書店とは違う日本の視点が入った書籍にうなずいては、「やっぱり日本人が欲しいのはこれなんだよなあ」とウムウム。いくらインターネットが便利でも、散歩がてらフラリと立ち寄って気分転換にのぞく日本の窓は、もしかすると日本にいた時以上の面白さ。

記念すべき(?)香港書店事情第一弾は、そんな在港邦人の貴重な窓である日系書店。今回は日本から香港の窓を開けて頂き、香港で頑張る日本の本屋さんをのぞいてもらうことに致しましょう。香港にいくつかある書店の中、独断と偏見でいつもお世話になっている書店、香港はコーズウェイベイに根を張り続けて13年の旭屋書店さん(以下「旭屋書店」)をご紹介。

まず、旭屋書店の位置するコーズウェイベイってどんなとこ?という、素朴なとこからいきましょう。コーズウェイベイは香港島の中心部、セントラルから少し東に位置する地区で、手頃な和食レストランに日本居酒屋、カラオケ店などが数多く集まった在港邦人・日本通のメッカ。また、ここは香港島の中でも1、2を争うショッピングエリア。そごう、三越を始めとするデパートがずらりと並び、(和)食とショッピングを楽しむ香港人、ついでに日本に興味のある香港人もたくさん集まる人気のエリア。

要するに、コーズウェイベイって香港と日本が溶け合って、渾然一体となった場所なんですね。

そんなロケーションの中、一番日本のデパートらしい造りの香港そごう11Fに位置するのが、旭屋書店。オープンして13年、2004年12月には香港そごう10Fからメンバー制クラブのフロアである11Fに移転。落ち着いた雰囲気を醸し出すこのフロアには、中国語と英語の書籍を扱う書店とカフェ、そしてこの旭屋書店の3店舗があるのみ。ゆったりスペースを活用し、ダークブラウンの書棚にはハードカバーから文庫本、雑誌、コミックなどがおよそ3万冊と、幅広く揃ってます。

本棚の間もゆったり

しかし、誰でも気軽に訪れることができるとは言え、やはり本来はメンバー制クラブの11F。実は、書店側は本棚を詰めたいところにスペースを取ってイスを配置しなくてはいけなかったり、手書きポップなどで商業色をあまり強く出してはいけなかったりと、多少のフロア規制があるようです。余裕を見せるために自発的に置いているんだと思ったイスが規制とは…いやはや、分からないものです。
それにしても、商業色を打ち出せないなら商売するのに不利なのでは?と、素人ながら思ってしまうのですが、訪れた時に店内が閑古鳥というのは見たことがありません。さすが、長年培った香港の日系書店としての信頼と知名度が効いてます。とは言え、実際にはどのようにお店を運営されているんでしょうね?簡単にではありますが、香港旭屋書店中川マネージャーにお話をお伺いしてみました。

まず宣伝に関しては、商業的になり過ぎない程度に小さな写真入り広告を書棚の所々に利用したり、掲示板を使って今週のベストセラー(ベスト10)を手作り風に発表。また、宣伝しなくてもすむ様に、よく出る雑誌や新刊をすぐ目に付く場所に配置するなど、さり気なく訪れる人の興味を引く努力をされているようです。

写真入り広告を利用した新刊コーナー
手作り情報を発信する掲示板
 

本を入荷するに当たっては、日本の売れ筋を入れるのはもちろん、世界の金融・経済都市である香港らしく、ビジネスマンの間で需要の高い世界やアジアの経済関連本、香港にいるからこそ知りたくなる香港・中国・アジアについての地域関連本など、香港でよく出ている本の動向をチェック。また、香港人スタッフの意見を取り入れるなど、香港での品揃えも意識されているようです。

意外と面白いビジネス本コーナー
香港の日本人はこんなの読んでます
日本と中国武道、両方揃ってます


そして、この旭屋書店の香港ならではのサービスは、3ヶ月以上の定期購読を申し込んだ人を対象とする割引サービス。(適用は4ヶ月目から。)書店セールやポイント制割引サービスなどを行うローカル書店をよく見かけますが、電車のつり革広告もなく、街の中に商品を宣伝する広告はデカデカとあっても本や情報を伝える広告というものが見当たらない香港では、これも客をつなぎ止める大事なワザの一つなのでしょう。

また、規制というのは裏返せば利点にもなるようで、規制の賜物であるゆったりとしたスペースとイスのおかげで、子供と一緒にゆっくり本を選ぶ家族連れの姿も多く見られます。香港自体が土地の少ない場所なので、日系書店でこんなにしっかりスペースを取ってイスまであるのは嬉しい限り。利用客(私)も全く気付かなかったくらい、自然に規制とうまく共存しているようですね。
ちなみに規制と言えば、香港は本の検閲は厳しくないそうですが、香港から中国本土、例えば香港から上海へ本を出荷するのは×。日本から直接中国本土に送るのはOKらしいので、何がいけないのか分かりませんが…。中国本土と香港、一国二制度の違いが関わっているんでしょうか。

尚、利用者の顔ぶれは、もちろん日本人がほとんど。それでも、漫画やゲーム本、写真いっぱいの日本のおしゃれ雑誌などには、言葉は分からなくても香港の若者も興味津々。日本情報を求めてやって来る香港人利用客も多いようです。

では、最後に旭屋書店の売れ筋をチェック。
一番人気やはり(?)コミックやゲーム本(講談社のコミック本もしっかり揃ってます!)。旭屋書店今週(4/15〜21)のベスト10を見ると、結構入っているのが中国関連のビジネス本。また、日本VS香港の比較文化モノも人気のようで、日本人嫁と香港人姑の嫁姑バトルを面白く取り上げた本もランクイン。ちなみに政治の本はあまり人気がないそうで、香港人どころか香港にいる日本人も、日本の政治には無関心ということなんですかね。(これは日本にいても同じでしょうか?)

<旭屋書店で現在ベスト10入りしている講談社の本>
ベスト2 今夜は眠れない (宮部みゆき 著)
ベスト5 生協の白石さん (白石昌則 著)

人気のゲーム本コーナー
講談社の漫画本コーナー

海外で煮詰まったり疲れたりすると、私は現地語や英語を見るのも話すのも億劫になることがありますが、そんな時にはやっぱり一番すっと頭に入ってくるのは母国語。「仕事に行き詰った時に、置いてある本からインスピレーションを得てもらった方もいます」、そう嬉しそうに話しておられた中川さん。何気なく立ち読みした本から知識を得たり、勇気付けられたり、笑ったり。気が付いたらパワーをもらっている日系書店は、私にとっては砂漠の中のオアシスのようなもの。これからも、しっかり利用させて頂きます!
…一応言っておきますが、立ち読みして気に入った本はちゃんと購入してますよ、念のため!

来月末の書店情報では、香港のローカル書店を紹介予定。いつも利用するのは日本語書店か英語書店なのであまり馴染みはないんですが、どんなとこなんでしょうね?仕組みは何か違うかな?私も気になるので楽しみです。

香港書店事情でこんな事を聞いてみて欲しい、あれはどうなってるの?というご要望・ご質問があれば、いつでも送ってくださいね。素人で恐縮ですが、できる範囲で調べてみます!

今回の書店: 香港旭屋書店
ASAHIYA BOOKSTORES HONGKONG LIMITED
HK SOGO BRANCH

11F 555 Hennessy Rd., Causeway Bay, HK
Tel: 2893 6083
Fax: 2893 6260
*中川さん、お忙しいところ本当にありがとうございました!

2006年4月24日  宮道 伸子