■メール・フロム・ニューヨーク #17

 長かった夏休みも残すところあと1週間。9月の新学期に向けて街では文房具や書籍、子供向け衣料品などの"バック・トゥー・スクール・セール"が始まっている。

 私も新学期に取るクラスの登録を済ませ、アドバイザーからは早速テキストの一覧表がEmailで届いた。アメリカの大学で使うテキストは100ドルとか平気でする。学生だからといっても容赦なく高い。4クラス取れば400ドル、1クラス1冊とは限らない。…あぁ、計算するとしんどくなって、クラスが始まってテキストを読んでこなくてはならない宿題がでるまで購入を延ばして粘る、という新学期を何回か迎えた。(粘ったからって安くなるわけではないのだけれど…)

 こんな学生の心理を知ってか、ニューヨーク大学が経営するNYU書店では学期が終わった後にテキストの買取りシステムがある。同書店で購入したテキストのみを定価の10〜50%で買取ってくれるので、多少なりともそれを次学期のテキスト購入費用の足しにしている学生もいる。(ちなみにこれらの書籍は定価の10〜40%割引価格で販売される。)このシステムはテキスト代をセーブしたい学生や、マージンが高く付けられる大学書店(注1)にとっては嬉しい話なのだけれど、版元にとっては痛い。リサイクルをされてしまうと、本が売れないのだから。

 と言うことで、ここ数年の間に増えてきているのが"カスタム出版"で作られたテキストだ。この"カスタム出版"は、テキストなどの専門書を数多く作っているマッグロウヒル社などが積極的に行っているのだが、同社が版権を持っている書籍から大学教授が使用したい箇所だけを抜き取って、それらを組み合わせてテキストにして販売するというもの。例えば本来ならば1クラスのために4冊の書籍を購入すべきところを1冊にまとめることも可能だし、学期ごとに最新情報も入れられ、部数も2冊からだって販売可能になる。つまりは"オンディマンド印刷"で作るテキストなのだ。内容が学期ごとに変われば学生はそれを購入しなくてはならなくて、版元にとっては嬉しい話なのだ。学生にとっては、オンディマンドだからと言って価格が安くなるわけでもなく、古書でも買えず、ため息が絶えることはないのだが…フゥ…。

 大学書店でこの"カスタム出版テキスト"が販売されている割合はまだ5%と少ないが、これから増えていくことは間違いないだろう。

(注1)通常、書店としては一般書籍の販売には40%のマージンが欲しいところだが、販売数の少ない専門書籍となると著者や版元へのマージンが高くなり、書店には約20%のマージンしかない。



August 25. 2003
前田直子


■メール・フロム・ニューヨーク #16

 日本への一時帰国もあっという間に終わり、日曜日にニューヨークに戻ってきた。大停電(英語ではブラックアウトと言う)の様子が気になっていたが、飛行機も無事着陸したし問題なくアパートに到着できた。

 翌日、アパートを一歩出るとウゥッ…とくる生ゴミの悪臭。大停電と週末が重なって、ゴミ置き場には生ゴミが山ほど置かれそこらじゅうにコーヒー色の液体が流れ出していて、ハエはブンブン飛びまくっているし大変なことになっていた。地域によっては30時間も電気が止まってしまったわけだからデリやレストランの冷蔵庫に入っていた食材は殆どがだめになってしまったらしい。清掃局の人だけでなくレストランの従業員までもが黒いビニールのゴミ袋をエッサエッサとトラックに投げ込んでいる姿は、食材のダメージを物語っていた。朝のニュース番組では、すっかり電気が戻った後で冷蔵庫のものを食べてお腹を壊して病院に駆け込んでいる人も多いと注意を促していたのを思い出した。おっとあぶない、私も危うく卵を食べるところだった。もったいないが卵4個を処分。

 インターン先の会社に着くと、やはり最初の話題は大停電について。木曜日は電車も走っていなかったので社内に泊まった人が3人もいたそうだ。「それは大変でしたねぇ…」とお慰めの言葉の後に続くハズの"大変だった話"を期待していたのだが、彼らの口から出てくる言葉といえば「近くのバーではキャンドルの灯だけでイイ雰囲気でね、また飲みすぎちゃいましたよ〜」とか、「ユニオンスクエアーでは若者達がギターで弾き語りをしていて、まるでウッドストックのヒッピーみたいに夜通し盛り上がっちゃっんだよ」とか、「パソコンも携帯電話も使えなかったけど、その代わり日が沈むまで窓辺でゆっくりと本が読めて、その後は真っ暗闇でぐっすり寝ちゃいました…」とか、「アパート屋上のバーべキューコンロでバーベキューして、朝はコンロでコーヒー沸かしたり、やっぱガスコンロはこんな時も超お役立ちってカンジ!」とか、皆様かなり大停電を楽しんでいた様子。トドメに上司からは「直子は楽しいイベントを逃しちゃったね!」なんて明るく言われて、ああ悔しい。ホント心配して損した!

 確かに今回の大停電は9・11のように犠牲者が出たわけではない。ちょっと生活に不便も出たが、それを決してネガティブに考えないで楽しいイベントにしてしまうところがニューヨーカーの良いところと言うか、タフさと言うか、ただのお祭り好きと言うか。そんなところに改めて関心してしまった。



August 19. 2003
前田直子

P.S. この大停電で心配をしてメールを下さった皆様、本当にありがとうござい
    ました。 直子は元気にやってます。(笑)


■メール・フロム・ニューヨーク #15

 半年振りに日本に一時帰国。冷夏と聞いていたのに帰国して以来、東京はすっかり真夏日が続いている。こういう時に限って実家のクーラーが壊れて効かない。しばらくは"あち〜"と唸りながら、カキ氷、冷麺、冷やし中華etc…久しぶりの日本の味でこの暑さを楽しむとするか…。

 さて、帰国する直前のニューヨークは、サマーセールの真っ最中だった。
"Sale"とショーウィンドーに書かれた店をハシゴしながら、思わず足を止めてしまったのがこの書店。18thストリートにある古書店スカイラインブックスだ。 (写真1)カラフルな紙に"SALE 30% OFF ALL"とだけ書かれただけの、シンプルながらも派手なアピール方法に
思わず笑いがでてしまった。そう言いながらもなんだか不思議なパワーで店内に引き込まれてしまったのだけれど。

シャッターの支柱からは、「はい。30%オフね!」
ショーウィンドウの上からも、「書籍全部が30%オフですよ。」
ディスプレー書籍の挟間からだって、「これも30%オフだから!」

専用ボードなんてのもあって、「だから、30、サンジュウ、さんじゅう・ぱーせんとオ・フ・で・す・よ!」

 

帰ろうとすると、向かいの電柱からさらに 「ここが、30%オフの目印だから!またのご来店をお待ちしております!」


August 3. 2003
前田直子